47「目立ちたがり屋」

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「きたる結婚式において俺達が通る道はすべて花を敷き詰め、楽団を随行。当然ながら花びらをまかせる。登場は二階からだな。籠を作らせて降ろさせる。美しい俺の妻をすべての客人が見られるようにだ。可能な限りの多くの客人を招待して……ああそうだ。当日は俺達の肖像画を客人に配ろう」
 当然のようにそう言った東の王子を止められるのは、その場には二人しかいなかった。
「ちょっと待ってよ鳥代」
 呆れたように眉を上げたのは西の王子だ。
「それ、本気で言ってるの?」
「馬鹿じゃねぇのかお前」
 南の王子もまた、友人の正気を疑っているような顔をしている。
「もちろん、本気だとも」
 鳥代はこっくりと頷いた。
「やめといた方がいいと思うよ」
「そうだそうだ。税金の無駄遣いだからやめとけ」
 友人である王伊と広兼が口々に止めたが、鳥代は聞く耳を持たなかった。
「一生に一度のことだ。俺の好きなようにしたっていいだろう?」
「あのなぁ、珀蓮がそんなの喜ぶと思うかよ?」
「俺は皆に自慢したい」
「それは鳥代の希望でしょ? 珀御前はあまり目立って喜ぶような人には見えないけど……」
 美しすぎる北の国の王女は、黙っていても人目を引いてしまうその容貌でいらぬ苦労を背負い込んだ女性だ。もちろん鳥代には、友人達の言うこともよくわかっていた。
 けれどそれでも彼は叫んだ。
「だが俺は! 皆に! 自慢したい!」
 友人の心からの叫びに、王伊も広兼も返す言葉を失って黙り込んだ。
 確かに鳥代にしてみれば、ようやくこの日がきた、というところなのだろう。
 彼はずっとあの美しすぎる王女に恋をしていたが、なかなか本当の意味で彼女を手に入れられないでいた。
 それがようやく、結婚、という運びになったのだから、友人が必要以上に張り切ってしまうのも仕方のないことかもしれなかった。
「……まぁそうだね。君の結婚式だからね。珀御前がいいならいいんじゃないかな」
「あほらしい。好きにしろよ。俺は知らねぇぞ」
「よし、そうと決まったら今言ったことを手配してくれ」
 鳥代は目を爛々と輝かせて自らの秘書官にそう言った。
 すると壮年の秘書官は丁寧に頭を下げると、
「かしこまりました」
 と答えてから続けた。
「それでは、まず花代を捻出するために本日より鳥代様の夕食は毎食パンとスープだけとなります」
「……え?」
「それと、高所から登場するために籠と人足ですね。こちらの費用を捻出するために……そうですね。鳥代様がお持ちの衣装を売りましょう」
「……おいおい」
「あと肖像画ですか? 招待客全員に配るだけの複写となるとかなり大変ですね。画家を五十人ほど見つけてきて、三日ほど彼らの前で被写体としてじっとしていることはできますか?」
「……無理です」
 特に最後のが不可能だ。珀蓮が了承しないに決まっている。
 有能な秘書官はにっこりと笑って言った。
「それでしたら、ご要望を叶えることはできかねます。他に何かございますか? なければ通常の王族の結婚式と同様に取り計らいますが」
「……」
「はは。そうしとけ、鳥代。珀蓮の怒りを買いたくないならな」
「僕もそう思うよ」
「……よろしくお願いします」
 がっくりとうなだれた鳥代なのであった。



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