13.釘


「嫌よ! 許せないわ! どうしてお姉様という妻がありながら他に女性が必要なの!? あの男の○○を切り取ってこの王宮の壁に打ち付けてやりたいわ!」
 と彼女は言った。
「落ち着きなさい。まったく、あなたって子は」
 と自分よりも五つほど年下のその女性を宥めるのはこの国の王妃である。
「切り取られて困るのはこの国の民なのよ。私怨でそんなことをしては駄目よ」
「でも……!」
「いいのよ。怒らないで。私が頼んだのだもの」
 王妃のその言葉に、彼女は耳を疑った。
「頼んだですって……? お姉様……どうして……」
 彼女の常識からすれば考えられないことだった。
 自分の夫に他の女を妻に迎えるよう頼むだなんて。
 すると王妃はその極上の微笑みでもってこう答えた。
「だってね、あの方は陛下の幼なじみでいらっしゃるのよ。あの方ならきっと、私が陛下にしてさしあげられないことをしてさしあげることができるわ」
 今度こそ彼女は激昂した。
「それがおかしいと言っているのよお姉様!」
 いったいこの美しい人は自分が言っていることを理解しているのだろうか。次いではっ、と息を飲む。
「まさか……お姉様は陛下を愛していらっしゃらないの?」
「それこそまさかよ。私は陛下をお慕い申し上げているわ」
「それなら……!」
 すると王妃はそっと彼女の頬に手を伸ばした。
 この国でもっとも尊い女性の甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
 王妃は微笑んでいた。
「あなたも陛下と一度会ってお話してごらんなさい。きっとわかるわ。あの方を愛する女性なら、あの方に最上のものを差し上げたいと思うもの。あの方が欲しいと思うすべて。あの方に必要なものすべて」
「……ぜっっったいに私はそんな男にはひっかかりません!」




「って言ってたのにあっさりひっかかっちゃったのよねー」
 と三妃は言って笑った。
「まぁ……」
 と早苗は微笑む。
「わかります。陛下はとても魅力的な方ですもの」
「え、ちょ、早苗。待って。それ聞き捨てならないけど」
 と広兼が動揺した。
 すると早苗は夫を見て、「私も」と続けた。
「私も、広兼様にはなんでもしてさしあげたいと思っていますから」
「……!」
「広兼。寝所に下がるのは許しませんよ。私達も、かわいい義娘とこうしてお茶をするのを楽しみにしていたのですから」
「あはは!」
「……」
「四妃様は手厳しくていらっしゃるのね」
「早苗様、お茶はお口にあったかしら? 広義が私のお腹にいた時に、よく飲んでいたものなのですけれど」
 王妃がにっこりと微笑んでぽってりとした腹を抱える早苗にそう言うと、彼女は嬉しそうに笑って、
「はい、ありがとうございます王妃様」
 と答えたのだった。