前菜


 世界には数え切れないほどのお姫様と王子様がいらっしゃる。
 お姫様は悪い魔女にかどわかされて、王子様が颯爽と助けに上がるというのが世の常だろう。
 そしてここに、三人のお姫様がいらっしゃる。
 シンデレラ。意地悪な継母に苛められるも運良く性格のいい魔女の助けを借りて、王子と出会った強運娘。
 白雪姫。実は魔女だった継母に毒を盛られ、なぜだか王子のキスで息を吹き返した高慢娘。
 眠り姫。村八分にされた魔女の逆恨みを受けて百年眠り、茨をくぐりぬけた王子に助けられた冷徹娘。
 さてここに、三人の王子様がいらっしゃる。
 片方のガラス靴だけを手がかりにシンデレラを探し当てた執念の男。
 森を歩いていて見つけた死体(白雪姫)がいい女だったという理由だけでその命助けた女好きな男。
 百年もの運命を信じ続けてついに眠り姫を見つけ出したロマンチストな男。
 ここまでなら普通の話。
 お姫様はそれまでの不幸な境遇から王子様に助けられ、その後幸せな人生を過ごすはずだった。
 けれどそうは問屋は卸さないのが魔女である。
 シンデレラの意地悪な継母も、白雪姫に毒を盛った魔女も、眠り姫を百年の眠りに落とした魔女も、同じ女だと一体誰が知っていただろうか。
 幸せな新婚生活も夢のまた夢。
 隣に愛する妻が眠る夢を見た王子達は、幸せな気持ちで目覚めて呆然とする。
 そこはキングサイズの白いベッドの上。
 一緒に眠っていたのは愛する妻ではなく二人の男。
 そしてベッドの向こうの扉には、一人の妖艶な魔女が立っていた。
 艶やかに黒い髪をたらし、胸の大きくあいたドレスを身にまとっている。細く白い手足がそのドレスから伸び、小さな薔薇のような唇が震えがくるような声を紡ぐ。
「いらっしゃい王子達。私の城へ」

 王子誘拐。
 この事実をお姫様達が知ったのは、その日の朝のことだった。

あわれ新婚さん。