3.「嫌なやつに会う」

「いや、だからですね。登校中に死にそうになったところを偶然彼らに助けられてですね」
「そんな嘘信じると思ってるの!」
 ほんとだもん! 紛うことなき真実だもん!
 しかし彼女達はわたしの訴えを聞き入れることなく、ぐいぐいと腕を引っ張って今いる茂みの裏の、さらに奥に行こうとする。それをわたしは軽く膝を曲げて腰を落とし、駄々をこねる子供のような格好でなんとか阻止しようと頑張っていた。
「黙ってついてきなさいよ!」
 苛立った少女が言う。いやいやそう言われて黙ってついていく馬鹿がどこにいるんですか!
 まだこの位置なら人に助けを呼べる。通りかかった人に助けを請おうと校舎の方を注視していたわたしは、幸運にもすぐに現れた影に声を上げた。
「あの!」
 すると影はこちらに気付いて立ち止まる。
「……」
 あああああ。
 なんで! よりにもよって! こいつが!
 そこに立っていたのは眼鏡をかけた男子生徒で、わたしにとっては非常に見知った顔だった。正直こいつに助けを求めるのは非常に不本意なところであるが、背に腹は代えられない!
「ちょ、たすけ……」
 とわたしが訴えを口にするその前に、そいつはぷいと顔を逸らしてすたすたとその場を去ってしまった。
 あまりのことに今起きたことを理解できない。
 え? 無視しやがったか? 今あいつ。明らかにリンチされる直前のこのわたしを前にして?
「い、今の……、樋口先輩じゃなかった?」
「やばくない? あの人生徒会でしょ?」
「でも何も言わなかったよ。気付かれなかったんじゃない?」
 そんなわけあるかああああ!
 あいつ、かよわき乙女であるわたしが拉致監禁されそうなところを見て無視しやがった! 信じられない! 仮にも十年以上付き合いのあるこのわたしに対してこの仕打ち! 鬼か! 悪魔なのかあいつ!? もういい! もうW(わたしも)A(あいつを)M(無視する)の刑だ! もうあんなやつ知るか! 火星人にアブダクトされそうになってるところを発見しても助けてやらん!
 とわたしが怒りに我を忘れている間に、女子高生達はわたしをずるずると引きずり無事人の目が届かないところへの避難を完了させた。
「あんた、どうせ二人のストーカーでしょ?」
「いると思ったのよね、昔同中だったからって追いかけてくる新入生が」
「それとも一目惚れ? でも駄目よ。彼らはみんなのものなの!」
「いい? これは忠告なのよ? あんたがこれからの学生生活を楽しく過ごせるように私達は忠告してあげてるの!」
「ちょっと聞いてる?」
 わたしはもううんざりしていた。
「……黙れよ」
 低くそう唸る。
「なに?」
 そう聞き返してきた正面の女子の胸倉をわたしは掴んだ。そしてそのまま彼女をぐいと引き寄せ、眉間を付き合わせてメンチを切る。
「うるせぇんだよ。黙れっつってんだろ。こちとら穏やかな学生生活を送るために学校来てるんであってお前らみたいな頭が沸いてる女子が何考えてるかなんてどうでもいいし、ああいうチャラチャラした男にも興味ねぇんだよ。空気読めよ。偶然助けられただけだっつってるだろ。か弱い新入生の言うこと信じてやれよ」
 わたしの方が身長が低いので、胸倉を掴まれた女生徒は前屈みになって腰が引けた状態で、ほとんど顔色を失っていた。他の女子四人もドン引きしている。
 まぁ普通眼鏡かけた黒髪のオタクっぽい女子がこんな言葉遣いしたら怖いよね! てへ!
 しかしわたしは内面のそういうお茶目な部分を前面に押し出すことなく女生徒を突き放すようにして開放すると、ちっ! とわざとらしく舌打ちしてから踵を返した。
 完璧だ。これであの女子達も今後わたしにちょっかいかけてこようとは思わないだろう。孝重郎にメンチの切り方教わっといてよかった。初めて役に立ったな!
 そう思いながらほくほくとわたしは茂みをかき分けた……
「!」
 ところでがつっ! と何かにつまずいた。