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 試験が終わってすぐ筆箱を鞄につっこむと、俺は「すいません母が病気なんで!」と言って試験監督が止めるのも聞かず教室を飛び出した。こうしなくても多分不合格だ。未練はねぇ。
 俺は彼女を捜した。
 早く早く。
 何かが俺をせっついた。
 急いで彼女を見つけなければ。
 そうして俺は、駐車場で彼女を見つけた。
「離してよ!誰があんたとなんか結婚するもんですか!」
「うるせぇ!黙って車に乗れ!」
 いけ好かないスーツを着た男が彼女を引っ張って車に連れ込もうとしていた。
 頭に血が上ったわけじゃない。俺は極めて冷静だった。
 けれどその場でその男を殴り飛ばした。
 彼女は目を見開いて、突然現れた俺を見ていた。
 俺は吐き捨てるように言った。
「とっとと帰ってクソして寝ろよ、下衆野郎」
 そして地面い無様に倒れたまま、俺に殴られた頬をおさえて何が起こったのかわからない様子で俺を見てくる男をそこに残して、俺は女神の手を取ってその場を後にした。
 繰り返すが俺は冷静だった。
「試験は?」
「もともと受かる気なかったし」
「どうしてわかったの?」
「本能」
 彼女の問いにも、俺は逐一答えた。
 そして校門の前まで来たところで、俺は彼女に向き直った。
 彼女は眼鏡をしていなかった。
 さっきチェイスした時も取っていたが、俺はこの時初めて彼女と真っ向から視線をぶつけた。
 黒い双眸はどこまでも深い。
 眩暈がする。
 俺は誘われるように、彼女に三度目のキスをした。
 そして今度は俺が聞いた。
「五年の距離は?」
「あっというまに縮まったわ」
 彼女は晴れやかに笑った。
「あの男は?」
「私の父親の千八百万の借金のかたに私を嫁にしようとしてた下衆野郎」
 ふうん、と俺は呟いて、ついでのように言った。
「あ、俺と結婚しない?」
 彼女は笑顔で頷いた。 
「いいわよ」
 俺はもう一度女神にキスをした。
 恭しく。まるで何かの儀式のように。
 女神が笑った。
 それは俺が心奪われるほど綺麗だと感じた不敵なものではなく、男心をくすぐる可愛らしく優しいものだった。

 運命から五時間三十五分経過。