世界には不思議なものであふれてる。
ふりかける粉で色を変える炎。蕾の時は白いのに花開くと色づく花びら。雲もないのに突然降る雨。時間をかけたらふさがる腕の傷。毎日見ているのにいつの間にか大きくなる猫。母親のお腹から生まれてくる赤ん坊。
ティレアリアが興味を覚えるものは周囲に尽きなくて、彼女は本当に退屈しなかった。
そして目下、興味があるのは弟の身体だ。
そこにはあきらかに自分にはないものがついている。
ターラの身体にそれがあることを彼女は知ってはいたが、一度気にしてみるとどこまでも気になった。
どうしてターラにだけそれはあるのだろう。
「触ってもいい?」
と聞いたらターラは顔を赤くして、
「駄目!」
と答えるとさっさと湯船に入ってしまった。
双子が一緒にお風呂に入るのは、物心つく前からの習慣だ。もっと幼い頃は侍女が手伝ってくれていたが、少し前から二人だけで入るようになっている。
ティーレは「ケチ」と不満気に漏らすと、泡だらけの自分の身体をお湯で流してターラを追って湯船に入った。
ティーレが近くに行って座ると、ターラは嫌そうな顔をして少し離れる。
「どうして離れるの?」
「ティーレが近寄ってくるからだろ!」
最近ターラがよそよそしい。
ティーレは唇を尖らせた。
「反抗期なの?」
聞くと、ターラがぎろりとこちらを睨み付けてきた。
ティーレは肩をすくめる。
「何怒ってるのよ」
「うるさい」
ついにターラが黙り込んでそっぽを向いてしまったので、ティーレは少し離れた場所からターラのそれをじい、と観察した。
この距離で、しかもお湯の中だからあまりよく見えなくてもどかしい。
突然静かになった姉を怪訝に思ったターラが窺うように振り向くと、そこには自分の下半身に見入る彼女の姿があったので、ターラは我慢できずにざばっと湯から上がり、逃げ出すようにして風呂から出た。
「あ、駄目よターラ! きちんと百数えないとお母様に怒られるわよ!」
ティーレは姉らしく弟を気遣ってそう言ったのだが、無視された。
「もう」
と好奇心旺盛な帝国の皇女は憤慨して腕を組んだ。
次の日から双子の入浴は別々になった。
風呂上りで髪を濡らしたままのタリアスが、父親に半泣きで懇願したからだ。
それは二人の成長の差異が明らかになり始めた頃、皇女と皇太子が、九歳の時のお話である。