僕と彼女が出会った時、彼女は二十七歳バージョンだった。
時刻は夜十一時で、若い女性が一人で公園をうろついてもいい時間ではない。
彼女は星を見ているようだった。
どこか違う世界の人間のように、あの空のどこかの星へ帰りたがっているかぐや姫のように見えた。
いや、かぐや姫は月に帰るんだけどさ。
僕は彼女に声をかけた。
会社帰りのサラリーマンが、ちょっと飲んだ帰りのサラリーマンがね、ナンパかよ。
女性に声をかけたのなんて、あれが始めてだ。きっとこの先もないと思う。
「すいません」
それにしたって、まったく面白みのかけらもない話しかけ方だった。
「すいません」 はないだろう。 「すいません」 は。
けれど彼女は振り向いて、焦点の合っていなかった双眸を僕に合わせた。
それからの変化は劇的だ。
夢うつつだった彼女が現実に戻ってきたかんじ。
僕をその目で認識して、少し時間を置いて、驚いたように目を見開いて、そして。
彼女は蝶のように笑った。
開花する花よりも、脱皮した蝶のように。
ひらりひらり。
蝶は飛んで、僕のもとへやってくる。
彼女はふわりと僕を抱きしめた。
まるで恋人に会ったかのように。嬉しそうに。
自分から声をかけたにせよ、初対面のはずの女性に突然抱きしめられて、しかし僕は不思議な安堵感を感じた。
ああ、よかった。
あのまま飛び立っていかないでくれて。
僕のところに降りてきてくれて。
よかった。
そして僕と彼女の共同生活が始まった。
まぁ、ぶっちゃけてお持ち帰り?みたいな?
でもさ、さすがにびっくりしたよ。
目が覚めてさ、隣見たら小学生が寝てんだもん。
ンなファンタジックな経験、人生そう何度もするもんじゃないでしょう。
マジびびったって。